おためし複業プロジェクトで事業をまちに開いたら、経営者も、複業人材も、生き方・働き方が進化した。

2024.05.01柴田 明/まちのタレント(複業人材)

「仕事が楽しいって初めて思いました」
「どんどんやりたいことを思いつくし、自分でそこにブレーキをかけなくなった」

京信人材バンクの複業オンラインコミュニティ「まちごとオフィス」には、複業に関心がある会社員やフリーランス、大学生の方々が参加しています。2022年2月に初めてのおためし複業プロジェクトとして、コンポストの普及に取り組む「ごみカフェKYOTO」のメンバーを募集。

当初は「何をすればいいのかわからない」という戸惑いの声があちこちで上がっていたそうですが、マネタイズ・広報・畑という3つの軸で活動が広がっていき、メンバーが入れ替わりながら2年が経ちました。「ごみカフェKYOTO」代表の中田さんと複業人材の3名に、それぞれの立場からのお話を伺いました。

プロジェクトについて

[テーマ]

今までにない新しい働き方で、事業をやってみよう

-活動の時間・場所・内容・量は、全て自由
-報酬は月1万円、受け取るかどうかは自由
-ルールや指示はありません

[メンバー]

ごみカフェKYOTO
中田 俊|株式会社夢びと代表 / 税理士

まちごとオフィス(ごみカフェKYOTOへの参加はのべ39名、その中から3名にお話を伺いました)
糸賀 友城 さん|畑担当、本業は機器メーカーのエンジニアを経て業務改善の部門へ
前田 朋子 さん|マネタイズやイベント企画を担当、本業は機器メーカーの専門職
松本 裕志 さん|LFCコンポストアドバイザーの資格を取得、本業は金融機関職員

[背景]

会社にインターンに来ていた学生が立ち上げた、生ゴミを堆肥に変える「LFCコンポスト」を広める取組。学生メンバーが巣立つ時に、まちごとオフィスのプロジェクトにするとおもしろそうだと思いました!

働き方が柔軟になったら、もっと人の可能性は開けるんじゃないか

── まずは、複業人材を募集してくれた中田さんと、「ごみカフェKYOTO」プロジェクトを振り返っていきたいと思います。

中田

3ヶ月経ったくらいから、想像以上に色んなことが起こり始めましたよね。糸賀さんは畑でイモを植え出すし、前田さんは勤務先の会社にコンポストの活動を持ち込んで「ウェルビーイングが爆上がりしました!」って目をキラキラさせていて。メンバーがLINEアカウントを開設してずっと運用してくれているし、もうまちごとオフィスなしには「ごみカフェKYOTO」は回らないです。

── 最初の頃は、ルールも指示もない中田さんのやり方に、みなさんかなり戸惑っていました。中田さんにとって、新たな発見はありましたか?

中田

組織にルールを作ると、そこに合う人が入ってきて、合わない人は出ていく仕組みができます。今回は、じゃあルールを取っ払ったらどうなるのか、という実験でしたね。こんなに色んな変化が起こるとは、驚きました。もしこれが企業と企業のコラボレーションとして始まっていたら、今みたいにはなっていないと思います。
今回、僕にとって新鮮な出会いがありました。大企業で働く方と関わる機会って、これまであまりなかったんです。うちの事業をまちの中に置いたら、大企業の人にも関わってもらえて、それぞれの個人の変化が社会に波及していく。この重なり方は、今までにない感覚でした。
こうやって、まちの中に事業を投げてみると、「やりたい!」って人がどれくらい集まってくれるのかがわかりますよね。地域の企業の持続可能性を考えるには、この視点がけっこう重要なのかなと思います。まちごとオフィスで募集して人が集まらないってことは、社内でその事業をやっている人は、もしかしたら本音ではやりたくないのかもしれない。

── 僕たちは「働き方が柔軟になったら、もっと人の可能性は開けるんじゃないか」という仮説を持って活動してきたので、実際に変化を目の当たりにして感動しました。みなさん、目の輝きが変わりましたよね。

中田

既存の仕組みにとらわれて、しんどくなっている人が多いんだと思います。従業員だけじゃなくて、経営者でも。採用の方法はこうで、これくらい利益が必要で、って。それで幸せならいいんですけど、日本はどうしたって働き手が減っていくので、今までの常識を手放さないと行き詰まるのは目に見えています。ごみカフェKYOTOは今、会社が人を採用しなくても事業が回る構造になっていて、そこがおもしろいと思っています。

経営層は、会社の枠組みを超える練習、考える時間軸を伸ばす練習ができる

中田

ビジネスの主流になっている「計画を先に立てて、実行する」という流れに、そもそも無理がある気もしていて。人は機械じゃないから、そんな思い通りにはいかないので。でも1年ごとに決算がやってくるし、人件費を払っている経営者にとって「待つ」ことは苦行です。精神的にきつい。まちごとオフィスは経営層にとっても、会社の枠組みを超えるとか、考える時間軸を伸ばすとか、そういった練習ができる場ですよね。
新しい事業の開発とか、特にいいんじゃないかな。バラエティに富んだ人材がいるので、社内だけでやるよりも絶対におもしろいですよ。業務委託などの一般的な方法よりも関係性がフラットなので、本音で意見を出し合えるというのも貴重です。

── 確かに、最初に「待つ」期間がしばらくありました。

中田

会社では上司の指示を受けて動いていた人が多いと思うので、「好きなことやっていいんや!」っていうモードに切り替わるまでに少し時間がかかるんですね。しばらくは「これはやっていいですか」「これはどうですか?」ってよく質問が来ました。毎回「いいと思います」って返し続けたら、だんだん何も聞かれなくなります(笑)。で、どこかでスイッチが入って、急に楽しそうに動き始める。
月1万円の報酬をいらないと言う人がけっこういたことも、興味深いです。「たいしたことはできなかったので、いりません」「マネタイズが上手くいかなかったからもらえません」って寄付してくれて。「3ヶ月何もしませんでした」って人に「何してたん?」って聞いたら、「おもしろいカレー屋さんで働いてました!」って言うんです。その話でめっちゃ盛り上がって。普通の雇用関係だったら、そんな展開にはならないですよね。あえて本業のスキルを使わずに、違うジャンルに挑戦している人もいたし。

── 基本的にはオンラインでコミュニケーションをとりながら、肉体派の人たちはよく畑で集まっていましたよね。印象的な場面はありますか?

中田

コンポストで作った堆肥をお渡ししている藍染職人さんの畑が、京都市西京区にあって。最初の頃、そこに何人かで植え付けの手伝いに行ったんですよ。当日を迎えると、信じられないくらいの豪雨で。でも、その日に作業を終えないと作業工程に間に合わない。寒い中全身びしょびしょで、「まだまだ残ってるやん……」「でも僕らがやめたら、職人さんが1人でやらなあかんくなる」って言いながら、なんとか植えきって。もう皆ぐっちゃぐちゃ。あれはすごかったな。

── 強烈なエピソードばかりですね(笑)。ありがとうございました。今後もよろしくお願いします!

今までは、自分の気持ちを抑えつけていたのかもしれない

ここからは、複業人材の3名にお話を伺っていきます。

糸賀 友城 さん|畑担当、本業は機器メーカーのエンジニアを経て業務改善の部門へ
前田 朋子 さん|マネタイズやイベント企画を担当、本業は別の機器メーカーの専門職
松本 裕志 さん|LFCコンポストアドバイザーの資格を取得、本業は金融機関職員

── まずは、普段はどんなことをされていて、なぜ複業人材として活動してみようと思ったのかを伺いたいです。

糸賀

機器メーカーに新卒で入社して、今11年目です。最初の何年かは仕事にやりがいを見出せなくて、会社と自宅の往復で毎日が過ぎていくことが不安でした。このままで大丈夫なんかなって。その後、異動があって、社員が数十人しかいない小さな拠点で働くことになったんです。気持ちを切り替えて自分にできることをやっていこうと思って、京都府の「ひまわりの絆プロジェクト」の担当に立候補しました。そのひまわりの栽培が想像以上におもしろくて、好きなことをやるって大切だなと感じたんです。その後、たまたま会社のイベントで京信人材バンクの複業人材の方と出会ったことがきっかけで、まちごとオフィスに飛び込みました。

前田

私は京都信用金庫の店舗に手続きに行った時に、まちごとオフィスの存在を知りました。育休中で時間があったので、ちょうど何かしたいなと思っていたタイミングで。コンポストには特に興味はなかったんですけど、やってみようと。

松本

僕は同僚に誘われて参加しました。子どもの頃から微生物に興味があって、もともと家でコンポストを使っていたんです。大学では環境問題を専攻して、解決の難しさを痛感しました。人が良かれと思ってした行動が、地球の裏側で環境を破壊してしまう。社会課題をどうにかして解決しようと、信念を持って動いている中田さんを見て、自分も何かできることをしたいと思うようになりました。

── プロジェクトに参加して、ご自身に何か変化はありましたか?

糸賀

畑がめちゃめちゃ楽しくて、向上心が湧き上がってくるというか、やりたいことが溢れてくるんです。以前の自分からは想像もできないことばかりですね。農作業のためにトラクターに乗れる大型特殊車両免許を取ったら、「陸海空やれたらいいんちゃう?」ってメンバーに言われて、船舶免許とドローンの免許にも挑戦して。今までは、自分の気持ちを抑えつけていたのかもしれないですね。

糸賀

育てたサツマイモを販売できないかと話していたら、ありがたいことにイベント出店の話が舞い込んできて。実家の和菓子屋さんを継ごうとしているメンバーがいたので、どうやって商品化するかを相談したら、なんとこのイモで新商品を作ってみようという話になったんです。1ヶ月くらいで試作をして、通常は小豆を使う源氏巻というお菓子を、イモあんでつくることに成功しました!120個くらい持って行ったかな。色んな人が買ってくださって見事に完売して、信じられない気持ちでした。生ゴミが堆肥になって、イモが育って、和菓子ができて、お金になる。活動開始から約1年でそこまでサイクルがつながったことは、すごく感慨深かったです。

ぼやっと頭の中で考えていたことを、具体的に進められるようになった

── お二人は、プロジェクトに参加していかがでしたか?

前田

まず、思考が変わりましたね。指示を受けて動くことに慣れてしまっていたところから、自分のしたいことを見つけて動くことを経験して、会社でも「もっといいやり方はないか?」「これで本当に役に立つのか?」と考えるようになりました。自分でもウェルビーイングが爆上がりしたと思いますし、同僚からも最近楽しそうだねって言われます。生活リズムも変わったんです。ずっと夜型だったけど、最近は5時に起きて、自分のしたいことをやってから、子どもを送って出社しています。
半年くらい経った頃から、「どうにかしてごみカフェKYOTOを活性化しないと!」という使命感がいい意味で薄れて、自分の生活の一部として関われる方法を考えたんです。堆肥を回収する場を増やしたいから、会社で回収会を開けないかって組合や環境系の部署に相談して、記事を書いたり社内アンケートを取ったり。思った以上に反響があったので、LFCコンポストを作っているローカルフードサイクリング株式会社の代表の講演会を開いたり、次のステップとして、コンポストアドバイザーを招いてのBBQの開催を計画したりしています。その時に協力してくれた同僚とは、別の仕事で一緒になってもすごくスムーズに話が進むので、ありがたいですね。

松本

ごみカフェKYOTOへの参加がきっかけになって、ぼやっと頭の中で考えていたことを、具体的に進められるようになりました。とても感謝しています。一番大きい変化は、ずっとできていなかった複業の申請をして、中小企業診断士としての活動を始めたこと。それから、コンポストアドバイザーの資格を取ってイベントに登壇したり、前から関心があったソーシャルインパクトの計測をごみカフェKYOTOで実践することができたり。
自分が社会課題の解決にどう関わっていけるかを考えた時に、コンポストが広まることで、地域にソーシャルマインドが醸成されていくんじゃないかと思いました。企業がいくらいい活動をしても、社会に受け入れる土壌がないと事業として続けられません。環境や社会のことを意識してもらうきっかけとして、大事にしていきたいです。

松本

初めましての人ばかりで、オンラインでしか会えていないメンバーもいますけど、みんな前向きで、相手を否定せず応援し合える。あったかいコミュニティですよね。コミュニティでの交流を通じて理解し合えたメンバーたちと一緒に会社を立ち上げてしまいました!具体的な活動はこれからですがワクワクしています!

── みなさんのお話を改めてお聞きして、胸がいっぱいです。今後のごみカフェKYOTOの展開も、皆さんの生き方・働き方がどうなっていくのかも、どちらもすごく楽しみです。ありがとうございました!

複業オンラインコミュニティ「まちごとオフィス」紹介ページ

https://www.machigoto-office-community.fants.jp/

聞き手:矢野 凌祐(京信人材バンク)
文・写真:柴田 明(まちのタレント(複業人材))

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