日本一サステナブルなダンボール会社になるために、目に見える成果を積み上げていく。

2023.11.27柴田 明/まちのタレント(複業人材)

「思いはあるけれど、伝わらない」
「事業や商品にどうやって落とし込めばいいのかわからない」

企業の方と話していると、こういった声をよく耳にします。今回ご紹介する洛西紙工株式会社さんとのプロジェクトも、発信のしかたや新しい取組へのお悩みからスタートしました。複業人材との活動からテレビ出演、新商品、イベント参画など目に見える成果が続々と生まれ、会社の空気もずいぶん変わってきたという取締役の小田 智英さん。小田 史織さんと、まちのタレント(複業人材)の二人と共に、お話を伺いました。

プロジェクトについて

[テーマ]

日本一サステナブルなダンボール会社を目指す

-プレスリリースを発信
-新商品開発
-関係人口を広げる

[メンバー]

洛西紙工株式会社 × 河村 翔・益田 健太郎
河村 翔|フリーランス/ポートフォリオ・キャリア実践家
益田 健太郎|企劃屋(きかくや)・なんでも屋・マルチすけったー

[背景]

別の業界で経験を積んでから、後継者として会社に入って……

・ダンボールという素材の可能性を広げるために、新しいカッティングマシンを導入
・事業を活かして、サステナブルな社会に貢献する活動を模索

社内外に思いを伝えるために、プレスリリースや新商品をかたちにして出していく。

──この半年を振り返ると、想像以上の成果が出ていて僕たちも驚いています。最初は、とりあえずプレスリリースを毎月1本書きましょう、というところからスタートして。

智英

プロジェクトが始まるまでは、外部の方が会社に来ることもほとんどない状態でしたし、僕自身も「複業」という考え方すら持っていませんでした。コミュニティ・バンク京信 物集女(もずめ)支店の支店長から京信人材バンクさんを紹介してもらって、河村さんと益田さんが来てくださって。そこからすごい速さで色々なことが展開していきました。

益田

1本目のプレスリリースを書く時に、「テレビに出たいですね、まずはKBS京都の『Kyobiz』に!」って話しましたよね。半年も経たないうちに実現するとは。

河村

テレビ出演などで外からの評価がかたちになると、社員さんのモチベーションが上がりますよね。今までは智英さんの「サステナブルな会社にしたい」という思いをわかりやすく伝える手段がなかったんだけど、プレスリリースや新しい商品という目に見えるものができてきて、一気に説得力が増したと思います。

智英

そうですね。最初のプレスリリースに「日本一サステナブルなダンボール会社」を目指すという宣言を書いて、会社としての姿勢を示せたことは大きな一歩でした。

史織

社内の反応はだいぶ変わりましたね。 今までは社会に貢献している実感を一人ひとりが持つ機会が少なく、「社会に必要とされる会社にしたい」と言ってもあまり共感が得られなかったけれど、一緒に考えてくれる空気ができてきました。

智英

先日、社員が提案してくれたNPO法人に行ってきたんです。フードバンクの活動をされているので、家庭に食品を送る際に必要なダンボールを安価で持続的に提供できるんじゃないか、という声があって。取引先にダンボールを配送する自社便があるので、事業の一環として協力ができる点がいいなと思っています。NPOの方も、寄付や食料提供以外の協力は初めてだとおっしゃっていました。

益田

そのアイディアが従業員の方から出てきたというのが、嬉しいですね。我々もフードバンクの仕組みを知らなかったので、お話を聞かせてもらっていい勉強になりました。

河村

プレスリリースのネタがありすぎて、月1本じゃ追いつかなくなってきましたね!

関係性を広げるところ、プロジェクトの進捗管理をするところ、両方を担ってもらえている。

──工作キット「SDKids」の京都版をつくる話も、どんどん仲間が増えて、輪が広がっていきました。

智英

商取引の中で生まれた話じゃないんですよね。社会にいいことをしたい人が集まって、できることを持ち寄って「SDKids」が完成した。そのプロセスに意味を感じます。我々のような小さな会社が万博に関わるなんて想像もしていませんでしたが、「TEAM EXPO 2025」に参加してみたら、色んなつながりができて。

益田

ダンボール関連の参加企業がないかと探して、高木包装さんの「SDKids」を知って奈良県まで会いに行きましたね。そこで「京都版をやりませんか?」と言っていただいて。ダンボールだけでは華がないので、貼箱を手がけているマルシゲ紙器さんに相談したら個性豊かな紙の端材を提供してくださることになり、印刷の修美社さんも協力してくれてね。

河村

はい。「紙出(しで)」と呼ばれる余り紙をいただいています。

益田

あとは、智英さんの「学生さんと一緒にやりたい」という声から、知り合いの京都芸術大学の教授に会いにいきました。ダンボールに関心のある学生さんを紹介してもらって、彼女がパッケージデザインをしてくれています。

智英

自社だけでは絶対につくれなかった広がりです。お二人がフットワーク軽く色々なコミュニティに入っていってくれて、そこに僕たちも連れていってもらって。次世代の子どもたちに貢献したいという思いは、以前から持っていたんです。何か知育に活かせたらと考えながらも、配送用の箱としてしかダンボールを扱ったことがなかったので、きっかけを掴めずにいました。なので、「SDKids」ができたことがとても嬉しくて。

益田

まず、ダンボールっていう素材の力が大きいですよね。日常の中で目にする機会が多く、誰でも触ったことがある。そのぶん新しい切り口を提案できると、興味を持ってもらえるんです。リサイクル率が95%を超えるので、環境問題に関心がある人に響くし、脱プラスチックの代替品としても広げていきやすい。

河村

僕自身、ダンボールとの関わりはゼロの状態からスタートして、今ではかなり詳しくなりました。最近は行く先々でダンボールの話をしてるんですけど、やっぱり皆さんおもしろがって聞いてくれます。

益田

今度の「循環フェス」への参加も楽しみですね。古着のリユースを広げるイベントなので、会場で使ってもらえるように、ダンボールのサインやパネル、什器のカバーなどを開発中です。若い世代が盛り上げているイベントだし、また新しい出会いにつながると思います。

──河村さんと益田さんの役割がうまく噛み合って、チームとしての成果がしっかり生まれている気がします。益田さんが動き回ってあちこちで種まきをしてくれて、河村さんが全体をまとめて、しっかりアウトプットまで持っていってくれる。

河村

始めの数か月はやりたいことやアイディアを拡散させるフェーズとして、とにかくいろいろなことにトライしてきました。ようやく先月くらいから優先順位をつけてスケジュール管理をするようになりました。ダンボールで作ったことのないものを作ろうとすると、設計にも時間がかかりますしね。ダンボールの茶室とか、ダンボールのカホンとか、色んなアイディアが並走しだしているので!

智英

おかげさまで、そろそろ収集がつかないくらいの忙しさになってきました。これまではルーティーンで回っていく業務ばかりだったので、プロジェクト単位で動いて進捗管理するスキルが我々にはなくて。そこを担ってもらえてありがたいです。

益田

おもしろいなと思うのが、当初のテーマだった新しいカッティングマシンの活用自体には、実は我々はほとんどからんでないんだよね。その部分は智英さんが自分で走り回っていて、周りに派生したものごとから我々がつながりを広げていっているというか。

智英

マシンを使って利益を出すことは会社にとって必須なので、最初はそっちに意識が向いていました。でも、マシンの活用だけを達成したいなら、ダンボールの専門家を呼べばいいんです。お二人の話を聞く中で、その縛りの中だけで考えてもらうのはもったいないなと思い直しました。

「やらない」という判断は一度もなかった。

河村

今、3月に出した最初のプレスリリースを見たら、「頭と手を動かしながら自らの手で作り上げていく知育玩具のリリースも予定しております」って書いてますね。この時はまだ「SDKids」の話は全くなかったのに。思わぬかたちで実現したなぁって、ちょっと鳥肌が立ちました。

益田

“たまたま”の連続でここまで来た感じですよね。万博の「TEAM EXPO 2025」もアテがあって参加したわけじゃないし。来た波にどんどん乗っていくやり方がよかったんじゃないかな。

河村

何がすごいって、智英さんの素直さだなと思っていて。僕たちが色んなことを言うんですけど、「やらない」という判断が一度もなかったですよね。結局、僕らがどれだけ提案しても、経営者が動かなかったら何も生まれないので。

──全ての提案を受け入れた理由は何だったんですか?全部しっくりきたのか、迷いがあってもやってみたのか。

智英

正直なところ、深く考えた上での判断ってわけでもなかったんですけど……。前提として、原資がたくさんあるわけじゃないから、お金をかけず今あるものを使って知恵と工夫を絞ろう、という心構えを共有できていたことが大きいと思います。関わる人が皆、その点を理解した上で力を貸してくれたので、動きやすかったのかな。

河村

複業人材が企業に入っていく時に、まず、それぞれ働いている環境も違えば、やり方やスキルも違うことを理解するのは大事ですね。進行が滞った時に、お互いに想像力を働かせて、柔軟に対応できるかどうか。

益田

私はもう自由に好き勝手やらせてもらってます。智英さんの思いという土壌があるから、自分たちのスキルや経験を思いきり発揮できる。ありがたいですね。

智英

河村さんと益田さんが得意なことを理解しようという意識は、最初にあったと思います。僕がお願いしたら、お二人は得意じゃないことでもやらざるを得ないじゃないですか。一方で、会社として結果を出さないといけないというプレッシャーは常にあって、そこもお二人が一緒に背負ってくれたことが心強い。

河村

「目に見える成果を出すぞ!」っていう意識は、僕たちもはっきり持っていますね。前半は特に目標を決めず、とにかくたくさん種をまいて、そこから結果を追う段階への切り替えがうまくできたと思います。

── 河村さんと益田さんの強みが、プロジェクトに100%活かされているんですよね。智英さんの度量の広さがあってこそだなと。

智英

いや、そもそも、京信人材バンクさんが僕たちの思いを汲み取ってくれて、河村さんと益田さんを紹介してくれたことがすごいと思うんです。たくさんいる複業人材の中から、誰に手伝ってもらえばいいのか、僕ら自身が選ぶのはかなり難しいです。自分たちが何をしていきたいのか、というところから一緒に紐といてもらえたことで、意義のあるプロジェクトになりました。

史織

社内の空気がほんとに変わりました。工場に社外の人が来るっていうだけでも抵抗がある人もいたと思うんですけど、今は日々色んな方が、しかも個性的な方たちが来られるので、「さっき来た人は何してはる人なん?」って聞いてくれるようにもなって。最初は私たちだけで始めた新しい取組も、自分ごととして一緒に動いてくれる人が増えてきました。

益田

改めてこうやって皆で振り返って、まだまだやれることがあると感じました。今のいい流れをしっかり実績につなげていきたいですね。

── ありがとうございました!

聞き手:新田 廉・矢野 凌祐(京信人材バンク)
文・写真:柴田 明(まちのタレント(複業人材))

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