老舗魚屋の未来を考えたら、社内・社外・社長の全方向に、予想外の変化が起きた。|まちのタレントバンク

2023.08.28 柴田 明/まちのタレント(複業人材)

「皆でディスカッションをしている中で、急にポンと出てきたアイディアでした」

「色んな人が集まっていっぱい話したら、必ず何か生まれるんです」

お魚屋さんと複業人材。なんだか不思議な組み合わせだと思われるかもしれませんが、2022年6月から翌年5月にかけて、株式会社西浅さんとのプロジェクトで色々な挑戦をしてきました。一般的なコンサルティングのような、あらかじめゴールが見えている取り組みではなく、どちらに進むのかわからない状態から始めたかったという代表取締役 児玉 周さん。

店長会議でのワークショップや、これまでにない体制の店舗づくりなど、実験と決断の連続だった1年間。西京極店店長 山内 和弘さんと、まちのタレント(複業人材)の中でもひときわ異彩を放つ二人と共に、これまでの活動を振り返っていただきました。

プロジェクトについて

[テーマ]

社外人材と事業の未来を考える

-事業アイデアの壁打ち

-社長/社員の意識/行動変化

-企業の関係人口

[メンバー]

株式会社西浅 × 中田 俊・林 佑哉

中田 俊|株式会社夢びと 代表

林 佑哉|Co Accompany 代表

[背景]

「未来の魚屋を考えましょう」から話が展開していって……

・社員が複業などで外の世界と関わって、視野を広げてほしい

・社員が会社の理念を語れるようになってほしい

京都信用金庫さんとプロジェクトをするなら、まだ見えていないものを見つけにいきたかった。

── 西浅さんのプロジェクトは、説明するのが難しいんです。でも、「社員を外に出したい」という思いに共感する経営者はきっと多いと思います。

児玉社長

うちは特に、職人ばっかりの会社なので視野が狭くなりがちです。社員は皆とにかく魚と海が好きで、この魚が美味しいからお客さんにも食べてほしいという気持ちで仕事をしています。そこに外からの刺激が加わると、もっと良い会社になれるんじゃないかと思いました。ただ、いきなり複業をしなさいというのはハードルが高いので、まずは複業をしている人を会社の中に入れてみようと。

最初に店舗をいくつも回らせてもらって、衝撃を受けました。店員さんが、お客さんとずっと立ち話をしてるんです。こんなに喋ってて怒られないの?大丈夫?って、こっちがひやひやするくらい。僕が得意とする身体的なつながりを、まさに売り場で体現されていましたね。これは出番がないかも……と出だしから思いました(笑)

中田

自分の生活圏内にも西浅さんの店舗があるのに、なんで今まで存在を知らんかったんやろうと思いましたね。どう考えてももっと多くの人に知ってもらった方がいいから、そういうエネルギーが会社の中から湧いてくるといいな、というイメージは最初にあったかな。

── 西浅さんには、6ヶ月のプロジェクトを2回続けて実施いただきました。でも、第1弾の前半は、具体的にかたちになるような話って何もなかったですよね。

児玉社長

全くの白紙からのスタートでしたから。店舗を回って、あとはひたすら色んな話をして……突拍子のない案が出たりもしながら、ちょっとずつネタが集まってきて。女性だけの店舗を作ろうというアイディアが、何ヶ月目かに急にポンと出てきましたね。従来の人事の枠組みを取っ払って、女性だけのフラットな店を作ってみたらおもしろいんじゃないかって。

どういう話の流れでそうなったか、もう忘れちゃいましたね。

児玉社長

女性の職人は、お客様に寄り添うのが上手ですよね。男性はまず売上や数字のことを考えがちなんです。女性は逆で、その方の食卓を良くしたい、ご家族に喜んでほしいという思いが先にくるので、あたたかい接客をしてくれます。

中田

社外に出てオープンな空間で西浅の女子会を開催したら、いい話がいっぱい出てきて。このメンバーで作るお店を見たい!と思いましたね。

児玉社長

プロジェクトを進める中で、こういう発想をしていいんだ、枠を外していいんだって、僕自身がすごく学ばせてもらいました。中田さんの前では、経営の常識に囚われた発言をしてはいけない空気がありますよね。だいたい考えが組み上がってきたところで、バシャーンとひっくり返される(笑)

中田

パルプンテ系なんで。*
*パルプンテ:人気ゲーム「ドラゴンクエスト」の、唱えた者にも何が起こるかわからない呪文の名前

前半は僕、ワークショップを全くやってないんです。サルサダンスのノウハウを活かしたコミュニケーションのワークなんですけど。今じゃないなと思いながら、一番の武器が使えないので、やきもきしていました。自分なりに工夫して別の案を出してみるけど、なんか違うってことが続いて。そのわからなさが楽しかったです。

── 中田さんと林さんと他にも、このプロジェクトに手を挙げてくれた複業人材がいました。この二人とやろうと思ったのはなぜですか?

児玉社長

他の方たちは、ご自身のスキルを活かした具体的な改善策を提案してくださいました。売上につながるイベントとかね。普通はそちらにお願いすると思うんですけど、今回、京都信用金庫さんとプロジェクトをするなら、まだ見えていないものを見つけにいきたかった。林さんはいきなり「握手したらその人のことがわかります」って言いだすし、中田さんは「魚って腐りますよね。ところで腐るお金があるの知ってますか?」って。何を言ってるのかよくわからなかった。おもしろそうだと思って、直感的に決めましたね。

思ったような反応が返ってこなかった場面もあるけれど。

── 山内さんは、突然よくわからない人たちが会社にやってきて、戸惑いはありませんでしたか?

山内

お二人が店長会議に来られて、お話を聞いて……僕はすっと受け取れました。サルサのワークショップも、店舗でのお客様との距離感や接し方に通ずるので、すごく大事だなと思いました。なので、うちの店舗にも来ていただいて、社員にも一緒に体験してもらって。

児玉社長

あの時の店長会議はすごかった。中田さんが運営する「学び場とびら」にお邪魔して、中田さん・林さんと人材バンクの方々と、さらにまちごとオフィスのメンバーの方までいる中で、まずは普段通りのかたい会議をして。

山内

店長会議に社外の方がいたのは初めてでしたよね。いきなりすごくオープンな場になっていて、驚きました。最後にボーナスを手渡しでいただいて、あの時間はとても印象に残っています。

児玉社長

会議の後に林さんのワークショップがあって、皆どんどん笑顔になっていってね。自分が実感したことを、次は店の皆に伝えてほしいと期待したんですけど、ワークを受けたい店を募集しても思ったような反応は返ってきませんでした。

実験でしたよね。誰か動いてくれるのかなっていう。結果として、山内さんの他にも二人の店長が手を挙げてくださって。それだけでもすごいことだと思います。

山内

確実に社内の空気は変わってきてますよ。この1年できっかけがあちこちに生まれて、すでに変化が起きているのを感じます。

児玉社長

どう捉えるか難しいところはあるんですけど、退職する人も出てきています。共感してくれる人が残ったってことなんでしょうね。その人たちは新しい動きを前向きに捉えてくれていると思う。50代の職人が、地域のイベントにボランティアとして参加するようになったりね。

中田

すごい怖い人やって言われていたベテランの職人さんが、会社で違う一面を見せてくれるようになったり。誰でも、会社で部下に接する時の顔がその人の全てではないから、何かきっかけがあれば、社内のコミュニケーションは変わっていくと思います。

どこまで本音を出していいのかっていう遠慮が、薄れてきた。

山内

僕が言うのも失礼かもしれませんけど、社長も変わりましたしね。

児玉社長

いや、そんなことないと思うけど……。

山内

変わりましたよ。サッカーで言えば、コートの外にいはったのが、今はだいぶ中まで入ってきてます。僕らの声を聞きながら、司令塔として一緒に走ってくれている。

児玉さん自身の思いを、より明確に社員さんに伝える場面が増えたという印象はありますね。どこまで出していいのかっていう遠慮が、薄れてきたような気がします。

児玉社長

そうかもしれません。私は、一番変わらなあかんのは消費者の皆さんやと思ってるんです。経済的なメリットや利便性しか考えない買い物が、世の中をおかしくする。でも、そんなこと店側から大きな声では言えないじゃないですか。もっと良い社会にしていこうと言い合える仲間が増えてきて、少しずつ隠していた思いを口に出せるようになってきました。

中田

自分で選べるんだから、僕はお魚でも何でも良い会社から買いたい。そういう思いを持って生活する人を、一人でも増やしていきたいと思います。本店で魚捌き体験をさせてもらって、きれいな刺し身をつくるのがどれだけ難しいかがよくわかりました。職人さんの技術を身をもって実感すると、店頭に並ぶ魚を見る目も変わりますよね。ぜひ多くの人に体験してほしい!

児玉社長

心強いです。京都信用金庫さんとの出会いは大きかったですね。金融機関なのに、コミュニティを大切にすると明言し、一人ひとりの社員が実践している。人材バンクの皆さんからもその志を感じます。人材系の会社で働いたことがあるので、利益を追求する人材ビジネスとは考え方が全然違うことがよくわかります。

山内

まずは、会社のビジョンを僕たち社員がしっかり理解することが大事かなと思います。次のステップとして、今一人ひとりが考えていること、伝えていることを、これからはチームとして店全体で伝えていけたらいいですね。

その人自身のため、社会のため、西浅のため、の3つが重なる取り組みを。

── 外から見ていて、西浅さんのファンが着実に増えていると感じます。僕たちはそれがすごく嬉しくて。

児玉社長

そう思います。ただ悩ましいのは、ローカルな商売なので、たくさんの人に知ってもらっても売上には直結しないんですよ。そこを社員に理解してもらうのが難しい。

中田

自然のものを扱っているから、鮮度が大事だし、漁獲量の変動もあって、ビジネスの難易度が高いですよね。でも、良い会社の関係人口が増えても売上が増えないっていうのは、社会としてよくないなぁ。どうにかしたいです。どうしたらいいかわからないけど、皆で話しながら考え続ければ何か見えてきますよ、きっと。スーパーに買い物に行って店員さんに挨拶できるって、良い生活やなと思うし。

僕の家は、西浅さんと出会ったことで魚を食べるようになりました。それまではお肉が多かったんですけど、2歳の子どもも美味しいって喜んでいます。食卓が変わりましたね。

児玉社長

皆さんが言う「関係人口」って何なのかが、だんだんわかってきました。雇用関係がなくても、肩書きも年齢も関係なく、西浅というステージでできることがあればぜひ一緒にやりたい。人材バンクさんには、他にも色々なかたちでお世話になっています。紹介いただいた方が人事広報担当として入社してくれたり、地域企業の社員さんがおためし複業というかたちで来てくださったり。どんなかたちでも、その人自身のため、社会のため、西浅のため、の3つが重なるところがきっとあるはずです。今回、人材バンクさんが保護者のようにずっと付き添ってくれたおかげで、このかたちが実現したと思います。

── プロジェクトが終わっても関係は続いていくので、お互いに報告したり喜び合ったりしながら、歩んでいきましょう。今日はありがとうございました!

聞き手:新田 廉・山中 唯(京信人材バンク)
文・写真:柴田 明(まちのタレント(複業人材))

ご相談・お申込み

ご質問、ご相談など、サービスに関して
お気軽にお問い合わせください。

ページトップへ